Special interview - PART 4:徳間ジャパン〜P-VINE、新作『JUMBO MONET』まで(2004年〜2024年)

interviewer : シンコー・ミュージック / CROSSBEAT 荒野政寿


──2004年に再びメジャーの徳間ジャパンと契約してミニアルバム『太陽の目』『真夜中の雫』を発表、翌2005年には『LIVE ~嵐の月曜日~』とベスト盤『NO HIT NO RUN ~栄光の軌跡~』、オリジナルアルバムの『in dock』を次々にリリースして、傍目には順調そうに見えたんですが。2006年に解散することになった経緯を、改めて教えてもらえますか?

アベジュリー:2003年にベースがプーヤンに交代して、しばらく徳間ジャパンから作品を出したり、ライブをやったりしてたんですけど、ちょっとマンネリ化してきたところもあって。そんな頃にはっつぁんから呼び出されて、「自分はデキシード・ザ・エモンズをやめようと思う」と…彼がソロでやっているオーセンティックな音楽が大好きだし、それが自分の道だと思う、という話をされたんです。ただ、今すぐやめるんじゃなくて「2年後にやめたい。それまではとにかく一生懸命やる」と言われて。自分もソロ活動をしていたし、バンドをやる理由がだんだんなくなってきちゃって。それぞれ好きなことをやってるんだから、ソロもバンドもやっていけばいいじゃん、っていうのも…続けていく理由があんまりない感じがして。だから「わかった」と答えて、最後だからアルバムも2人だけで作ろうってことになったんですよね。

──それでP-VINEから出た『GOLD DISK』(2006年)ではプーヤンがベースを弾いてなかったんですね。

アベ:ライブだけのメンバーとして、続けて参加してもらってね。

ハッチハッチェル:そうだったんだねぇ(笑)。すっかり忘れてた。あの異常なテンションのアルバムね。この間ライブで1曲やったけど(「クラウス」)、凄い盛り上がった。あれ、またやりたいね。完全に知らない曲で、「これアベ君が作ったんでしょ?」って言ったら、「はっつぁんが作ったんだよ」って(笑)。自分が作った曲なのにまったく覚えてない、どこも。

アベ:最近また『GOLD DISK』を聴き直してみたんだけど、あのアルバムは最後だと思ってやってるから、前半のテンションが凄くって。

ハッチ:ライブでも多分あんまりやってないよな。

アベ:もう解散に向かってたからライブ自体そんなに沢山やってないし。だから『GOLD DISK』の曲ってあんまりライブではやってなくて。

ハッチ:よくある話でね、友達同士でずーっと一緒にバンドをやってきたのが、途中からだんだん離れてきちゃって。お互いにね。

アベ:家庭を持ったりもするし、一番の友達っていうのとは変わってくるから。誰でもそうだと思うんですけど…大きく言えばビートルズとかも。

──そうやって解散が決まってから、日比谷野音でのラストライブへと突き進んで行く感じだったんですね。

アベ:そういうことですね。だから実は解散に向かって一生懸命にやるというのが我々の中であったんです。だけど、お客さんの間では「何かもうやめそうだ」という気配を感じて、見てるのが結構辛い、みたいな時期があったっぽくて。今になってそういう話をちょっと聞いたりするのね。だから最後のアルバムは聴いてないとか、野音のDVDは見られないとか…そういうファンは結構多いみたい。

ハッチ:全体的にムードが悪かったからね。

アベ:「もう一回デキシード・ザ・エモンズをやることになったから、ようやく野音のDVDを見ることができた」とかね、そういう話を聞いたりする。今こうして我々が再びやっているのは、昔在籍していたK.O.G.A Recordsが2014年に20周年ライブをやる時、社長の古閑(裕)さんから「どうしてもデキシード・ザ・エモンズをやって欲しい」とお呼びがかかって。

ハッチ:そこから10年経ってしまったわけか(笑)。古閑さんから「1回だけでいいから」と言われて、いざ練習し始めてみたら楽しくてね。もう何で嫌だったのか忘れちゃった(笑)。忘れやすい人間の強みだね。

アベ:はっつぁんが小島麻由美さんのバックをやってて、ドラムを完全にやめたわけじゃなかったのもよかった。

ハッチ:デキシード・ザ・エモンズをやめた時に、ドラムも全部人にあげたりして処分して、一切ドラムをやめたつもりだったんだけど。その3年後ぐらいに小島麻由美さんの事務所の社長から連絡があって、「どうしてもやってくれ」って言われて。ちゃんと聴いたことがなかったからTSUTAYAでCDを3枚借りて聴き始めたら、1曲目でやられて「うわ、すいませんでした社長! やらせてください!」って言って(笑)。あまりにも曲が素晴らしかったんで。ただ、今度は人のバックだから相当練習して。

アベ:より磨かなきゃいけなくなっちゃった(笑)。

ハッチ:デキシード・ザ・エモンズでは好き勝手できるからそんなに練習とかしなかったけど、小島さんとなると有名な方だし、結構チーチキチーチキっていう感じの曲も多いから、これはちゃんと練習しなきゃと思って。

──その頃に小島さんのライブを拝見しましたけど、結構いつも通りのハッチさんだなと思いましたよ。

ハッチ:そう見えました?(笑)。それは小島さんも合わせてくれてたんですよ。ハッチがドラム叩くんだったらこういう曲で、って。小島さんはメンバーを見て曲を作る人だから、結構俺に合わせてくれて。それをやってる途中で、「またデキシード・ザ・エモンズのライブをやらないか?」と話をもらったんで。小島さんのところで叩いてなかったら、デキシード・ザ・エモンズじゃ叩けなかったかもしれない、とも思うし。前よりちょっとうまくなってるかもしれないから、デキシード・ザ・エモンズで自分の腕を試してみたいというのもあって。それでまたやってみたら楽しくって、毎年のようにライブをやるようになっちゃって。

──新しいベーシストとして、おふたりのバンドでそれぞれ共演しているフジオカ ドイチローさんが加わりましたね。

ハッチ:練習からずっとイチローがいると俺たちが喧嘩しないで済むんですよ(笑)。中和剤と言うか、何かあったらイチローに文句を言えばいいだけなので、彼がクッション材というか。

──イチローさんはデキシード・ザ・エモンズに加わってみて、どうでした?

フジオカ ドイチロー:もうずっと笑いっぱなしでした。二人でずっとくだらないことばっか言ってるんで…。

ハッチ:そういうわけで、イチローが入ったおかげで俺とアベ君が元の友達同士に戻れたんですよ。昔こんな感じだったよなっていう状態になって、「ワーイワーイまたやろうぜ!」ってなっちゃって。ただ、「解散中のデキシード・ザ・エモンズ」って言いながらライブを何回もやるのはお客さんを騙してるみたいで嫌だから、そろそろ解散中って言うのをやめようぜってなった頃に、ちょうど古閑さんからレコーディングの話をもらって。そういうタイミングだったよね? 再結成って言うのはダサいから、「解散中をやめました」っつって(笑)。

──で、新作に取り組み始めたわけですが。今回は10曲中7曲とハッチさんが作曲で大活躍してますね。

アベ:最初の日に「30曲作ってきた」って言うから、じゃあ俺作る必要ねえなと思って(笑)。

ハッチ:俺、極端なんですよ。古閑さんから「曲を持ってきて」と言われていたのをすっかり忘れていて、しまった!と思って。アベ君も作ってる様子がなさそうだから、とりあえず多ければいいだろうと思って猛烈に作って…緻密にじゃなくてね。適当に弾き語りでアベ君に聞かせる曲を、30曲はさすがに多いので、そこから5〜6曲選んだ感じかな。

アベ:最初にフルアルバムは無理だと思ったんで、「できた曲数でお願いします」みたいな感じで話してたんですよ。そしたら30曲できてきたので、これはアルバムになっちゃうんだなと思って。

フジオカ:「なっちゃうんだな」って(笑)。

アベ:自分はとにかく歌詞を書きたくないから、「アルバムか…」みたいな感じなんですよ。

ハッチ:曲はアベ君も俺もすぐ作れるんだけど。俺も自分で歌詞を作るようになってから、書くのに凄い時間がかかるもんなんだなとわかった。同じ言葉ばかり使いたくなっちゃうのを、何とか変えようとして。

アベ:この歳になったら何も言いたいことないし。誰かに何かをわかってもらいたいとも思わないし。

ハッチ:その良さがあるよね、逆に。

アベ:本当に、伝えたいことが何にもないから。そもそも伝えたいことなんか何もなかったんだけど(笑)。

ハッチ:せっかくアルバムって言うんだから、8曲入りとか中途半端な曲数にはしたくなくて。昔の人間だから「ニューアルバム」って言いたかった。それでアベ君が一生懸命歌入れしている間に、俺は2曲をでっち上げまして(笑)。

──そんな風にできたインストも実にデキシード・ザ・エモンズらしくて良い感じでしたよ。順番的に言うと、まずどの曲から録り始めたんでしょう?

ハッチ:「ワッターユールッキン」かな。

アベ:サウンドを見るのにちょうど良さそうな曲だった。

──ここまでストレートな8ビートのロックンロールって珍しいですよね。

ハッチ:そうかもしれないですね。

アベ:パッと思い浮かぶのはあるんだけど、割とはっつぁんが作るタイプの、彼が歌ってきた感じのやつ。

ハッチ:「バイ・バイ・カントリー・ボーイ」とかね。

アベ:自分は全然作んないけど、はっつぁんが作るロックンロールタイプの曲って、全然ロックンロールの3コードじゃないから、コード感は。やっぱり独特なんですよ。

ハッチ:コード進行のことばっかり考えてきたから…今何にもわからないんだよね、世の中のことが。

アベ:世の中の進行が(笑)。

──和風なメロディの「さよならベイビー」では、最初期のデキシード・ザ・エモンズを思い出しました。

アベ:はっつぁんから「30曲作ってきた、まずはGSから」ってこの曲を聴かされて、マジかよ?って思ったんですよ。今さら橋幸夫みたいなのをやるつもりなの?って最初に思って、どうしようかなと。確かに「エレキの若大将」みたいな曲はあったけど、ちょっと戻りすぎじゃね?と思って。

ハッチ:若い頃は“THE和風GS”はあまりにもダサく感じて、避けてきたんだよね。

アベ:嫌いだったんですよ。演歌っぽいGSっていうか。「エレキの若大将」は偶然ああなっちゃった。家でウィルコ・ジョンソンの曲をヘッドホンで聴きながらベースでコピーしてるつもりが、曲が終わってみたら全然違うフレーズを弾いてたの(笑)。そこからできた曲。

フジオカ:あの旋律が(笑)。

アベ:和風なやつを作ろうと思ってたわけじゃないの。だから「さよならベイビー」もどうしようかと思ったけど、「嫌だ」って言うのはやめようと…曲の良さをあきらめないのがはっつぁんの良さだと思うし、曲への信頼はしてるんで。やってみたら絶対面白くなるんだろうなと思って。じゃあダークダックスみたいに歌ってみるか、とか。

ハッチ:1オクターブ低い声で歌ってね。

アベ:そこにテンプターズの“命懸けてます”っていう感じも混ぜたり。

ハッチ:TOP BEAT CLUBのライブでやってみたら、新曲の中で一番盛り上がった。意外だったよね〜。これからああいうのばっかりになるかもな(笑)。

アベ:2周も3周もしちゃってるんで、こういうのも…もう何をやってもいいやと思って。

──「ル・ノワール」はプリティ・シングスを思い浮かべながら聴き始めたんですけど、よく聴くとツインリードがシン・リジィで、のけぞりました。

アベ:最初にはっつぁんが持ってきた時点では、もっとゆっくりしたシャンソンみたいな曲だったんですよ。

ハッチ:お洒落なコード感で、たまにはおとなしめの曲をやろうと思ってたんだけど。アベ君がいきなりニヤニヤし出して、イントロを♪ティリリーッって弾き始めて。「何だこれ、シン・リジィじゃねえか」「シン・リジィみたいにやろうぜ!」っつって、デンデケデンデンッてやってるうちに、3人でゲラゲラ笑い出して「こりゃあいい!」ってなって。

アベ:こういうスピード感で行こうってなってから、「ちょっとはっつぁんギター弾いて、ハモろう!」って(笑)。

──ああいうコード感であのスピード感、という組み合わせも新鮮でした。

ハッチ:本気でシャンソンのつもりで作ったからね(笑)。それをあのような形にされてしまったわけですよ。

アベ:コード進行がああいう感じでスピード感があったら、UFOとかシン・リジィみたいな感じにできるんじゃないかなと思ってね。

ハッチ:俺たちが憧れるイギリス人のかっこいい音楽…ビートルズとかも、もしかしたらこういうところに源流があるのかもしれない。ポール・マッカートニーやジョン・レノンも、いろんな種類の音楽が好きで、「これにこんな風にビートを乗せてみようぜ」っていうところから始まったんじゃないかと。ビートルズって異様なコード進行で、ああいうのって普通のロックンロールを作る人には多分出せないと思うんですよ。ヨーロッパってシャンソンの前にはクラシック音楽のコード進行っていうのもあるわけで。ああいうのが源流にあるんじゃないかな。

アベ:それを違う方法でやってみようっていうね。このスタイルって意外とないなと思って…ハードシャンソン(笑)。

──今回その“ハードシャンソン”という新しいキーワードが出てきて。

アベ:どうせなら歌い方はセルジュ・ゲンズブールみたいにしたくて。

ハッチ:ハードロックを通ってから、またシャンソンに戻るわけですよ。

──語尾の歌い方、「ガッ」「ツエッ」とかたまらないです。

アベ:そういう風に歌ったら何でもシャンソンに聞こえるかなと思って。

ハッチ:いいのを発明してしまったよね。今回はたまたまシャンソンという形で現れたけど、こういう言葉遊び的なことは前からアベ君がやってることで。

アベ:歌詞で遊ぶことによって、歌詞の内容をかわしていくっていう…曲とかより歌詞が勝つのは嫌なんですよ。

ハッチ:ストレートに自分の想いがバレるのを極端に嫌うんです、この男は。わからないようにするのがうまい。自分というものがわからないように歌う…何でそんなことするのかなと俺は思うんだけど。

──確かに今まではそういう感じでしたけど、新作では「オフコース」でこの年齢になった覚悟が少し見えたり、本心かな?と感じる部分が歌詞の中にいくつかありました。

アベ:割とそう。伝わっちゃってもいい曲もあるかな。ずっと自分というものがわからないように歌いすぎて、そういうのはあんまり良くないっていうのも、ちょっとあって。特にゴルフ・レコード以降の曲は徹底的にそれをやってたんで、さすがにやりすぎて意味がない気もしてきて。

ハッチ:時代も追いついてきたよな。「ル・ノワール」をサブスクで聴くと、歌詞が出せるじゃん。読みながら聴くとちょうどいいんだよ。アベ君の歌詞って耳で聞いただけだとわかり辛いけど、読みながら聴くとなるほど!と思えて、ほどよい。1曲目の「オフコース」の歌詞はわかりやすくて、やっぱりグッときますよ。

アベ:あれは曲が良かったから。

ハッチ:ふたりで褒め合ってますよ(笑)。

──「オフコース」は黄金のアルバム1曲目ですよね。幕開けに相応しい。

アベ:そういうつもりで自分もいたし。EPICソニー時代に「田舎の中学の卓球部の子にもわかる曲を」って言われたけど、それが今ならできる(笑)。

──ずっと新作を待ってたファンに対する気持ちも入っているように感じるし。

アベ:そうですね。今回の歌詞は、捨て置かれた者の立場から見た曲が多くて。フラれ男がテーマですからね。

ハッチ:いつも歌詞を見せてくれないんですよ。なのに「ここハモってくれ」とか言うの。出来上がるまで恥ずかしがって見せてくれないから、実はアベ君の歌詞をよく知らない(笑)。

──久々にこのバンドでレコーディングをしてみた感じはどうでしょう。スムーズに行けましたか?

ハッチ:めちゃめちゃスムーズだったね。

アベ:自分だけ問題があって、喉を悪くしちゃってまともに歌えないから、苦労したのはそこだけでした。本当はデキシード・ザ・エモンズとしてのバンド活動をきちんとするっていうつもりもなかったし、古閑さんからの呼びかけにも常に渋ってる感じではあるんですけど…今の自分には実力がない、とね。お客さんは喜んでくれるけど、自分の実力がある程度のところまで届いていないのに、どうなんだ?という怖さはあります。でも問題はそれだけで、演奏はすんなりいけました。やっぱりイチロー君はうまいし、努力もしてるから、だいたい3〜4テイクで終わりましたよ。時間がかかったのは歌だけで。ダビングは古閑さんのスタジオでやったんだけど、音を出すとすぐに上のマッサージ屋から苦情が来ちゃうから、あんまり重ねられなかった(笑)。そのおかげでK.O.G.A時代にやってたような、重ねすぎないシンプルな形になったので。飛び道具やレコーディングギミックもそんなに使わずやれたのが、このアルバムの良さかもしれないです。シンプルな分、聴きやすいと思う。

ハッチ:今回の曲順はね、珍しくアベ君が何回も並べ替えて試行錯誤して決めたんです。いつもそんなことしないのに。本当に良い曲順になったと思う。

──イチローさんはレコーディングの感触はどうでした?

フジオカ:今までスタジオでここまで音を重ねるとか、あんまりしたことがなかったんで。やっていくうちに曲の世界が膨らんでいく、色がバーっとついていく感じが、やっぱりデキシード・ザ・エモンズは凄いなって思いました。

──ライブ映えしそうな新曲が多いので、生で聴くのが楽しみです。9月に渋谷CLUB QUATTROでのワンマンが決まってますけど、ライブは今後どんなペースでやっていく感じですか? 各自の活動もあるので、昔みたいなハードなツアーは難しいと思うんですが。

ハッチ:今のところ、月に1本から2本のペースではやりたいと思ってて。

アベ:遠くへも行きたいんだけど、いろんな都合でどこも一発ずつしか行けないんで。そんな感じで一応3月ぐらいまで、仮でライブの予定は決まってますよ。